ボクたちの選択 22


圭介が女子生徒の恋の相談を受け初めて、一つ変わった事がある。
夢を、見るようになった。
それも妙な夢だ。 そして、“えっちな”夢だった。
あからさまで羞恥心ゼロな女子生徒の相談で、圭介の頭はえっちな想像でいっぱいになっていたのかもしれない。
自分は一度も体験していないにも関わらず………いや、だからこそ、なのだと思う。
想像が膨らみ、それが蓄積され…夢の中で圭介は、とても口では言えないような事を、した。
そして、された。
“その時”、自分が“どちら”だったのか、定かではない。
男だったような気もするし、女だったような気もする。
相手は圭介自身ではなく、確かに“誰か”だった。
男として女の子にキスし、そのやわらかいおっぱいを手で触れて……
そしてそのおっぱいから伝わってくる切ない“波”に、あそこが………濡れた。
しているのは、自分だ。
なのに、されている事を知覚する。
自分がどっちの性で愛し、愛されているのか。
混沌のままに眠りは深まり、そして、朝を迎える。
そんな朝は、決まって下着が濡れていた。
時には、お尻の方までぬるぬるしている事がある。
いくらなんでも、分泌液が多過ぎる…と、圭介は思った。
自分の体はどうなってしまったのだろう。
男だった時、圭介は既に夢精を経験していた。
女にも、そういうものがあるのだろうか?そう、本気で悩んだ。
けれど、こればっかりは母にも、由香にも、ましてや健司にも相談出来ない。
保健教諭のソラ先生なら、教えてくれるだろうか?
そう思った6月5日木曜の朝、

圭介は、『女』になって初めて、それを体験した。


天井が見える。
カーテンからの光が、薄明るい部屋の空気を切り裂くように差し込んできていた。
「……っ……」
圭介は口を軽く開けて、はっ…と短い呼気を吐く。
わかっていた。
また、濡れている。
お尻に“きゅ”と力を込めると、あそこがぬるぬるしているのがわかった。
やはり自分は、異常なのかもしれない。
この2晩、立て続けにいやらしい夢を見て、そしてあそこをぬるぬるに濡らしている。
この分では、またシーツまでしっとりと濡れているだろう。
気だるい身を起こし、ベッドの上に座り直す。
それだけであの“肉の亀裂”が縒(よ)れて擦り合わさり、いっそうぬるぬる感が増してしまう。
キモチワルイ…と、思った。
けれど、それだけでもなかった。
なんだかむず痒いような、くすぐったいような、不思議な感じがする。
腰から下が重たくて、感覚が“もったり”としていた。
ベッドのヘッドボードにある時計を見た。
時間は、朝の7時12分だった。
7時50分には由香が迎えに来る。
学校の始業時間が8時30分だから、本当は8時10分に家を出れば余裕で間に合うのだけれど、
女になってからは毎朝由香による『女の子チェック』が入るので、今ではそれまでに一応の身支度を整えておかないといけなかった。

圭介はのろのろとベッドを下り、部屋を出て階段を下りた。
同じく2階にある父と母の寝室のドアは、まだぴったりと閉まっているから、きっとたぶん母はまだ眠っているのだろう。
昨夜は、ずいぶんと帰りが遅かった。この分だと、毎週木曜日に局で行う収録の、時間ギリギリまで、ぐっすりと眠るつもりに違いない。
ふと、いっそのこと漫画みたいにフライパンをおたまでガンガン打ち鳴らして安眠妨害してやろうか……
なんてことをちらりと思ったけれど、朝から無駄な体力を使うことも無いと思い断念する。
『やだなぁ…』
歩くたびに肉厚のお尻の中で、ぬるぬるとした感触をハッキリ感じてしまう。


階下に下り、トイレのドアを開け、閉めきる前に便座の蓋を上げてパジャマのズボンとパンツを一緒に下ろす。
ねとねとした粘液を見たくなくて正面のドアだけ見ていたけれど、座ってしまうとそういうわけにもいかなかった。
両足の間にかかる白い下着の『橋』の真ん中には、ちょっと黄ばんだシミとべっとりとこびりついた透明なぬるぬるが見えた。

“濡れる”という事は、自分の体がなんらかの反応をしている…ということだ。
そこまではわかる。
けれど、実際にどういう刺激が与えられてこうなるのか、圭介はあまり考えないようにしていた。
男だった時、マスターベーション……つまり自慰をしなかったわけではない。
あの恍惚とした射精感は、まだかすかに覚えていた。
でも……、と圭介は思う。
『女って、どうやるんだ…?』
なんとなくは、知っていた。
コンビニで売っている、書いた人間が脳の半分を便所にでも落としてしまったのではないか?
とさえ思えるノータリンなSEX雑誌や、同じような記事を毎年毎年飽きもせずに繰り返すイカれたメンズ雑誌などでは、
男本位で妄想炸裂なピンク色のドリームしか載っていなかったから、
こうして女になるまではすっかりそれが疑いようのない真実だと思っていた。
吉崎や加原や金子の、通称「3馬鹿」は、そういう雑誌を学校にまで持ってきて、
さも自分が見たかのように『女のマスターベーションのヒミツ』だの『女がひとりえっちする時のオカズ』だのを、
頼んでもいないのにわざわざ圭介に教えてくれたものだが、実際にどこをどうすると気持ち良いのかとか、
どんな格好でするのかとか、そういう詳細な情報はほとんど知識として蓄積することはなかった。

ただ、太いちんちんの形をしたバイブレーターを膣に挿入するとか、指を2本も奥まで入れてお腹の側のちょっとくぼんだ所を押すとか、
そんなオナニーは、今の圭介にはとても怖くて出来そうにも無い。
体の中に異物を入れるという行為そのものに、本能的な恐怖を感じるのだ。
いっそのこと、由香に聞いてみようかとさえ思った。
進退極まった時の最終手段は、あの母に聞く事だけれど、それをしたらきっと母は手取り足取り…
それこそ、望んでもいないのに実践までして教えてくれそうで、それはそれでとても怖い想像になってしまったので
圭介は絶対にそれだけはやめておこうと固く心に誓っている。
そもそも、あの『肉の亀裂』は、ちんちんを弄るのとはワケが違うのだ。
あれは「体の亀裂」であり、内臓がそのまま露出しているのである。
そんなところを指や道具で触ったり弄ったりして、もしバイキンでも入ったらどうするのか。
傷付けて、出血でもしたらどうするのか。
考えただけで怖くなる。
女になってたった1週間ちょっとの自分にとって、生まれた時から女だった他の女性と同じような事が出来ようはずもないのだ。
彼は、そう、固く信じていた。


便座に座って力を抜き、ほっ…と息を吐く。
ぷしゃっとオシッコがしぶき、便器の内側に勢い良く当たって大きな音がトイレに響いた。
ぶるるっ…と、腰から背中を震えが駆け抜ける。
体から直接体温が流れ出していく気がした。
少ししてから、トイレットペーパーをぐるぐると巻き取りつつお腹に少し力を込めて“ぴゅっぴゅっ”と
オシッコを搾り出すようにして切るけれど、なんだか、まだ中に残ってる感じが拭えない。
圭介は、お尻を少し動かして位置を調節してからウォシュレットのスイッチに手を伸ばした。


もともとウォシュレットは、およそ1700年初頭……西洋で風呂とトイレがまだ無い頃、女性が排便排尿の後や、
セックスの後で陰部を清潔に保つために使用したフランスを起源とする「ビデ(bide)」から発展した……ものらしい。
週に一度くらいしか入浴しないで、体臭を香水で誤魔化してた国だからこそ生まれた……
というとかなり語弊があるかもしれないけれど、あながち外れてもいないようだ。
圭介も、母に聞いただけだからちょっと半信半疑なのだけど。

現代の「ビデ」は使用用途が広くて、陰部の感染症や膀胱炎などの時、お湯を溜め、消毒薬を溶かして陰部を洗ったり、
時には足を洗ったりクツを洗ったり(!)、それに、ちょっと変則的ではあるけれど、
トイレを掃除する時などにバケツ代わりに使ったりもするのだという。
日本ではほとんど見かけないけれど、ウォシュレットがその発展形ならば、ここまで普及したという事はそれだけ
「紙で拭く」だけでは汚れを落とした気がしない人が、多かったという事なのだろう。
男の陰茎みたいに、“ぶるるっ”と振ってオシッコを切ったり出来ない分、女の陰部は排尿した後、紙で丁寧に拭かなければならない。
けれど、粘膜が直接露出している部分の汚れを、柔らかいとはいえトイレットペーパーで拭うようにして取る勇気は、
女になったばかりの頃の圭介には、無かった。
どうしても痛みを感じてしまうし、濡れてちりじりになったトイレットペーパーが『肉の亀裂』の中に残ったら…と思うと
『ちょんちょん』と軽く叩くように水分を拭き取るのが精一杯だったのだ。
家がウォシュレット完備のトイレで、本当に良かったと思う。
幸い、学校の「教室棟I」のトイレも、5つある個室のうち2つは洋式便器であり、しかも、
家と同じメーカーのものが設置されていたから、圭介も不安は無かった。
『あ、でもね、けーちゃんはお母さんの遺伝形質を受け継いでいるから、滅多に感染症にはかからないから安心してね』
と、母は言ったけれど、膀胱炎やクラミジアや…女性の内陰部疾患を散々聞かせてビビらせておきながら、
最後にそんな事を言う母は、やっぱり少し意地が悪いと、圭介は今でもそう思う。


小さな作動音の後、すぐにお湯が
「んひゃ…」
腰が、少し浮いた。
咄嗟にスイッチを切るが、“ぴくりぴくり”と体が震え、じわじわと腰から“あついもの”が這い上がってくる。
圭介は思わずお尻を緊張させ、正面のドアに両手をついた。
「…はっ…ぁ…」
ぶるぶるぶる…と震えが走り、両足から力が抜け、そして同時にお尻の緊張が解けた。

今のは、なんだったのか。

お湯が女性器に当たった途端、びりっと痺れが走った。
今まで感じた事のない“痺れ”だ。
まだ、胸がどきどきしていた。
なんだろう。
物足りない。
どうしよう。
どうすればいい?
“きゅっ”とお尻に力を込めてみる。
あそこがじんじんとしているようで、圭介は困惑して意味も無くトイレットペーパーをまた引き出した。
とにかくトイレから出なければ。
混乱している。
落ち着け。
そう自分に言い聞かせる。
そして、濡れた股間の水分を拭こうとして、
「んはっ…ぅ…」
手が、触れた。
「んっ…ぅ…」
肉厚な陰唇に甘い甘い甘い甘い“痺れ”が走る。
それはたちまち体の中心に走り、広がり、下腹部のなかで“くくくっ”と何かが、動いたような気がした。
実際に内臓が動いたわけではないだろう…と思う。
けれど思いながら、
『…子宮……』
と認識してしまった。
自分にも、子宮がある。
膣があるのだから、当然それが至る場所もあるのだろう。
けれど、それを今まで圭介自身、強く自覚した事は無い。なんとなく体がだるく感じる時でも、下腹部が重たく感じる時でも、
子宮やそれに連なる女性器官の存在は、意識が自然と考えないようにしていたのだ。

「んっ…」
“きゅうっ”と、胸が切なくなった。
正確には、胸にある、2つの突起が。
「ち…くび…」
声に出して、その言葉そのものに羞恥を感じる。
自分はこんなところで何をしているのか。
どうしようというのか。
何を、求めているのか。
手に持ったトイレットペーパーが便器の中に落ちる。
指は、そのまま下腹部を滑った。
「んっ…ひぅ…」
しゃくりあげる。
指の先が、厳重な守りで陰核を覆う肉鞘に触れたのだ。
『いた……』
ひりひりと、じんじんと、指の触れたところが痛む。
まるで、乾いた指で触れることの是非を、厳しく問うように。
どうしよう。
触れたい。
どうすれば…
「…ん…」
少し濡れた指を、躊躇いも無く口に含む。
含んでから、その苦しょっぱい味に、指についたのはオシッコではないのか?という考えが浮かんだが、
それよりもこれから得られるものに対する期待が大きく、その意識はすぐさま押し流され彼方に消えた。


トイレというのは不思議なところで、特に西洋式便器の設置される場所は個室という事もあって、
秘密の隠蔽(いんぺい)性が高いものだ…と自然に思ってしまう。
しかもここは、慣れ親しんだ自分の家のトイレだ。
だからこそこんな大胆な事もしてしまえるのだろう。
これが学校や公園の、しかも男用トイレであったならこうはいかない。
いくら男の性感が単純で、射精に至る時間が短いとはいっても、開放的でいつ人が入ってくるかわからない場所で
自慰など、とても出来やしない。
「……っ……」
圭介はトイレの便座に座りながら、両足をゆっくり開いていった。

なんてことを。
そんな、自分を咎める声が聞こえる。
けれど、まるで男性誌のヌードグラビアがするような破廉恥でみっともない姿を、やめる事が出来ない。
「…んぅ…んっ……んっ……んっ…」
びくっびくっびくっと、体がはじける。
揺れる。
踊る。
陰核そのものを触るのは刺激が強過ぎて無理なため、圭介の指は左右に盛り上がる陰唇の肉を寄せるようにして刺激を繰り返していた。
「んぅふあっ…」
やめなければ。
由香が、来る。
もうすぐ、迎えに来る。
「…だ……ぅ…」
何かを口にしようとした唇は、そのままOの形で時を止め、その中で圭介の可愛らしい舌が真珠のような歯の裏側をなぞった。
『…きもちいい……』
なんだこれ。
なんなんだこれ。
こんなきもちいいのか。
こんなにきもちいいのか。
おんなってこうなのか。
おとこよりぜんぜんきもちいい。
思考がレバーを捻って蛇口から迸る水のように後から後から漏れてくる。
くにくにと指先でふっくらとした肉を押し、包皮に包まれたザクロの実を刺激し続ける。

ばかになる。

男だったら、もう4回は射精しているだろう快感が、望むだけずっと続く。
麻薬のようだ。
どんどん、どんどん、高みに昇ってゆく。意識が押し上げられてゆく。
このまま続けたら、そしたら

「けーちゃん?いるの?」

突然、母の声と、ノックの音。
「…っは…っ…うっうんっ…」
やっとそれだけ言えた。
意識が急激に覚醒する。
滲(にじ)んだ視界で、慌てて自分の格好を見た。
放尿した後、便座に座って、少し両足を開いていた。
そしてその開いた足の間には、右手の『なにやってんだオレ……なにやってんだオレなにやってんだオレなにやってんだオレっ!?』
ざああっと血の気が引く。
ワケのわからない衝動に呑まれ、朝のトイレでオナニーしてしまった。
「大丈夫?寝てない?由香ちゃん、もうすぐ来るんじゃないの?」
「あ…か……ぁ…母さん、起きたの?」
顔が熱い。
顔だけじゃない。
体も、あそこも熱い。
ほっぺたが腫れぼったくて、あそこが、トイレに入る前よりもっとぬるぬるしてる気がした。
「うん。さっき善ちゃんから電話があって。そうそう、朝御飯作ったから食べてね?お母さん、これから東京まで行ってくるから」
「そう……って、ええっ?これから?」
一気に意識が覚めた。
「うん」
「………わかった。気をつけて…ね」
「あらあらあら…なんだかけーちゃん可愛いわ」
「…からかうんならもう言わねぇ」
自分がしていた事を見透かされたような気がして、圭介は顔を真っ赤にして怒ったように言った。
「うそうそ。ほんと、ほんとよ?」
どっちなんだ?
甘ったるい声を出す母に溜息をついて、もう一度ウォシュレットのボタンに手を伸ばした。
…と、
「あ、けーちゃん」
「…なに?早く行かないとオヤジが待ちくたびれるぞ?」
わざと不機嫌そうな声を作って圭介が言うと、若さ炸裂な母は『んふん』と笑って囁くように言った。
「あんまり、しすぎちゃダメよ?」
「…っ!!!」

ぜんぶ、ばれてた。

母が出掛けていってから由香が来るまで、圭介が何をしていたか。
それは、本人の名誉のために沈黙しよう。

ともかく。
圭介は、女になってからの初めての“目覚め”を、こうして朝のトイレの中で迎えたのだった。




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