アリスの娘たち〜  サァラ3


「ボクは、お姉ちゃんが好きなんだ!!」
部屋に戻るなり、サァラは姉にそう叫んだ。
「……それで、どうしたいの?」
「どうって……。ボク、どうしていいのか、わからないんだ」
「私たち、姉妹にならない方が良かったのかしらね。」
「そんな、ボクはお姉ちゃんがいるから……」
「あなたが、本当は"アリスの娘"になりたくなかったのは、知っていたわ。あなたが私のことを……その、単なる好きじゃないってことも。
私たち、生まれたときからずっと一緒にいるんですものね」
「じゃあ、どうして姉妹にならなかった方が良いなんていうの??ボクはお姉ちゃんがいないと、ダメなんだよ」
サァラはもう自分の感情があふれ出るのを、止められなくなっていた。
しかし瞳にいっぱいの涙をためた妹の懇願であっても、サヤカは姉として説き伏せなくてはならないことが、あると思っていた。


「サァラ、なぜこの船には、男と女がいるのだと思う?どうして、"アリスの娘"以外の誰もが、何度もパートナーを変えると思う?」
「そんなの……、わからないよ! ボクにはお姉ちゃんだけだよ。他の誰もいらない。お姉ちゃんさえいれば、ボクは……」
「出かけてくるわ。」
「出かけるってどこへ? 戻ってくるよね?」
「さあね」
「それなら、ボクも連れてって!!」
「お留守番していなさい、サァラ」
「まってよ、置いていかないでよ!一人にしないで!」
泣いてすがろうとするサァラを振り切り、サヤカは部屋を出ていってしまった。


「……というわけなんです」
サヤカは、娘たちの中で最年長のハルカに相談するために、部屋を訪ねていた。
「サァラちゃんがねぇ。確かに他の人への態度と比べると、あなたへのそれは普通じゃないと思っていたけど……」
「サァラは姉としてじゃなくて、恋人として私を求めているみたいなんです。
 自分ではその気持ちを抑えていたつもりなんでしょうけど、編集長にも言われていましたから」
「ま、あの人はね」
「ハルカお姉さま、サァラさんはどうして、サヤカ姉さまが好きではいけないの?」
「ヒロミ、大人の話に割り込んではダメよ」
「ボク、もう子供じゃないもん」
「はいはい。それは憧れのアキラ君に"オトナ"にしてもらったらの話ね」
「ヒロミ……ちゃん、だっけ? あなたは好きな男の人がいるの?」
「え?ええ。好きって"大切"ってことでしょ?」
「じゃ、ハルカお姉さまは?」
「もちろん大好き!」
「ふふ、いい子ね、ヒロミちゃんは。サァラにもそんな風に育って欲しかった。私はダメな姉だわ」
サヤカはヒロミの頭を優しく撫でたが、その瞳はヒロミではなく、まだ性転換したばかり頃の、サァラの面影を映していた。
「あなたはあなたなりに、役割を果たしているわ。サァラは……、そうね、まだ成長の途中なのよ。
 だから、あなたがしっかりと妹を導いてあげなきゃ」
「サァラは、自分でもどうしていいのかわからない、って言ってました。でも、私にもどうしていいのかわからないんです」
「それで、ここへきたの?」
「ええ。本当は、サァラのことをお願いしたいと、思っていたのですが……」


「うーん、そうしてあげてもいいんだけど、ヒロミはまだ手がかかる時期だし、
 伝助先生のお手伝いもあるから、2人も面倒見切れないしねぇ……。
 シルヴィも途中でレイカに預けちゃったから、このコは最後まで面倒見てあげたいと思ってるのよ」
そういって、ハルカはヒロミの手をとってひき寄せた。
ヒロミはくすぐったそうにしながら、ハルカにじゃれつく。
「こんな風に、スキンシップでもしてみたら?
 サァラがまだ成長できてないと思うのなら、もう一度最初から始めてみるのもいいんじゃないかしら?」
「最初から?」
「そう、最初から。あなただって、最初はサァラに教えてあげたんでしょ?
 どうしてもらうと気持ちいいのか。どうしてもらうと、人を愛したくなるか」
「それは……」
ハルカの言わんとしていることを、理解したサヤカは顔を赤らめる。
「その様子じゃ、あなたサァラにあまりかまってあげなかったんじゃないの?
 だからサァラは行き場を失って、気持ちを自分の中に押し込めちゃったんじゃないかしら?」
「でも、私たちは女同士で……」
「そうね。でも、したいときはすればいいんじゃないかしら」
「お姉さま!ということは……その、ヒロミちゃんにも毎日?」
「やぁねぇ、子供相手にただれた日常送っている、みたいな言い方しないで。こうしてじゃれあってるだけでも満足するもんでしょ?
 その……、そんなに過激なことをしなくてもね」
ハルカはちょっと頬を赤くしながら、じゃれついてくるヒロミの前髪をかき上げて、額にちゅっと軽くキスをする。
お返しにという風に今度はヒロミがハルカの頬にキスをする。
(それって、十分過激な気もするんだけど……)
サヤカは同性同士の性愛には、あまり免疫が無かった。


「そうね、相手がサァラちゃんじゃ、キスだけってワケにも行かないだろうし、いいモノ貸したげるわ。ヒロミはココに座っていなさいね」
そういって、ハルカは部屋の入り口近くのワードローブから箱を取り出して、サヤカに手渡した。
「何ですか?これは」
「うーん。まぁ開けて御覧なさい」
サヤカがふたを開けて中を見ると、そこには見覚えのある形をした、細長い"物体"が入っていた。
「ハ、ハルカ姉さま。こ…、ここ、これはいったい……」
「えーと、その。見ての通り。どう使うかはわかるわね?それで、ここのところがスイッチになっていて、強さも調節できるの。ほら」
ハルカがその"物体"の底にあるスイッチを入れると、鈍い音を立てて振動しな
がら、くねくねと動き始めた。
「う、動くんですか??気、気持ち悪いです」
「形はね。でも確実にイカせられるわよ」
「悪魔だわ……。まだいたいけなヒロミちゃんにこんなモノを……」
「まだ処女のあのコにそんな事しないわよ! レイカが持っていたのを取り上げたの。
 どっから見つけてきたのか知らないけど、それで私を……。
いえ、そんなことはどうでもいいわ。電源はここにバッテリーを入れるようになってるの。動かなくなったらチャージしてね」
サヤカはレイカとハルカが、どこでなにをしていたかを想像すると頭が痛くなった。
「…その、娘同士でって、結構あるんですか?レイカお姉さまとは……」
「ん?どうかしらね。私はレイカとしか……、彼女は中身は男のままね。レイラとは、どんなことしていたのかは知らないけど」
「知らなかった……。お姉さま方がそんなことしてたなんて……」
「ああもう、今は自分たちのことを心配しなさい。
 サァラちゃんも、もしかしたら、まだ恋愛感情は男のままで、そういう風にあなたを見てるのかもしれないわ。
 だから、女としての悦びってのを教えてあげたら?」
にっこり笑ったハルカの顔は、サヤカには悪魔の微笑みのように思えた。




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